2017年08月10日

ラファウ・ブレハッチ インタビュー

2017年10月7日(土)14:00開演 横浜みなとみらいホール
ラファウ・ブレハッチ ピアノ・リサイタル

実に4年振りの来日!この10月、いよいよラファウ・ブレハッチのリサイタルが開催されます。
公演に先駆け、ブレハッチ本人に話を聴くことができました!

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【演奏家にとっての年齢を重ねることは】
演奏家にとって年齢の要素は大切なものです。しかし、いちばん大切なものではないと思うのです。最も大事なのは、センシビリティ、理解力そのもの、ではないでしょうか。なにを感じ取り、見抜き、演奏すべき曲に正しいヴィジョン見出すことができるか。曲によってそれはすべて違うはずです。
もちろん、同じ曲を繰り返しステージで演奏することにより理解が生じることもあります。例えば私の場合は、10年前にショパンの幻想ポロネーズを演奏し、しばらくあとの2010年にも演奏したのですが、そのさいに興味が目覚めた点がいくつかあり、そこを、先立つ演奏とは異なる奏法にしたのです。そのように変えることが自分にとって自然なことでした。そしてそういった変化が起こることは素晴らしいと思うのです。演奏家が年齢を重ねることで、聴衆にそのような変化をお見せできるとしたら、それは、大きな喜びですね。

【毎日の生活】
2005年のワルシャワでのコンクール以降、生活のバランスを保つことにとても気をつけています。コンサートのスケジュールと普段の生活との間に、適切なリズムを保つことです。今でもコンサート活動が過剰にならないように注意しています。1シーズン、つまり年間で50回程度に、最多でも55回に抑えています。そのようにして普段の生活の部分を…レパートリーを広げるための勉強時間、あたりまえに生活して人間として成長する時間、そしてときには休養の時間を、切り詰めないように。家族や友人と過ごす時間も人生にはとても大切なものです。
そうやってバランスを保つことで、どのような曲と向かい合う場合も、きっとその曲により近づくことができるようになりますよ。

【マイブーム】
音楽表現に関する哲学を精力的に勉強しています。5月にはポーランドの大学で、哲学のご専門の先生方・学生の方々と、ある議題について討論を行ったところです。哲学を専門とする学生のかたが200名、教授が50名ほど参加されました。
私はその機会に、ステージに設えたピアノでバッハの楽曲の部分をいくつか演奏し、実例を示して議論に参加しました。宗教的概念・思想の抽象的表現について語る場だったのです。
学位論文をすでに書き終えまして、まもなく、最終試験を受けることになります。
とはいえ、心のなかにあるものを言葉で表すより、ピアノの音に乗せて表すほうが、よりしっくりくるのです。私たちの人生の瞬間瞬間の経験や感覚はじつに多様です。それらを余すところなく表現することができれば、と希(ねが)います。

【好きな日本食は?】
お味噌汁がとても好きです。それから、しゃぶしゃぶも大好物です。私だけでなく、家族もみんな、しゃぶしゃぶは、大好きです。

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【バッハに関して】
私の音楽の勉強のスタート地点、それがヨハン=ゼバスティアン・バッハのさまざまな楽曲でした。オルガン曲に魅了されたことがすべての始まりです。当初私はオルガニストになろうと思っていました。 5歳か6歳のときです。毎週日曜日のミサに参加していて、そこでオルガンの音を聞き、また、あるとき、私の両親が教会のオルガニストと知り合いで、私のためにオルガンに触れるための許可を取ってくれたのです。幸運でした。興味本位で弾いてみたのです。とても楽しかったですが・・・なんというか、あのときの、あの、鳴り響く音の魅力は・・・陶酔するような感覚は非常に大切なものでした。ピアノでバッハを演奏するとき、大切にしているのはあのオルガンの音の記憶です。それを私の手がピアノ奏法に置き換えるプロセスを踏むわけですけれども・・・根底にあるのはバッハのオルガンサウンドなのです。
2005年のショパン・コンクールのあと、ドイツ・グラモフォンでの最初の録音をバッハにしたいと考えていました。ですが、やはりショパン・コンクールで優勝したわけですから、まずはショパンで、ということで、「24のプレリュード」にしたのです。バッハを録音するまですこし、辛抱しました。でも結果は、それでよかったと思っています。その間に、これほどすばらしいバッハの楽曲を何度も演奏会で弾いてみて、違う音響効果、違うピアノ、いろいろ経験し、今回の録音に備えることができました。レコーディングのためにスタジオ入りする前に十分な準備ができたのです。
オルガン曲とピアノ 曲の間には、いくつか特殊なつながりがあります。特にバッハについて言えば、私はピアノで弾くときにもオルガン式のレガートを用います。私はオルガンの基礎があるおかげで純粋なピアノ奏法とはすこし違うレガートを使いこなすことができます。もしピアノ奏法だけならば、レガートにしたければ右の足のペダルを使いますが、たとえばこのペダルの助けを借りなくても手の指だけで表せるレガートがあります。これは、オルガンを弾くときの手の使い方なのです。バッハの曲では、この奏法を使うことができる・・・いえ、使わなければならない場合があります。フィンガー・レガートと呼ぶとしましょう。フィンガー・レガートにより、音どうしのつながりが、よりかっちりと明るくなります。バロック式になるのです。ピアノで弾く前に、オルガンで同じ曲を弾いてみるという経験は、助けになります。
今年の2月にリリースされたばかりのCDは、やっと、バッハの曲のみで構成したもので、大きな喜びを感じます。私にとってこの上なく重要な作曲家なので・・・ そして、プログラムの最初に「4つのデュエット」をお聴きいただくのは、この最新のCDの世界にみなさんをお招きするためです。バッハの楽曲にはいつもどこかミステリアスな空気があります。なにか宗教的な空気でもある。ぜひそれを、感じてください。

【ショパンに関して】
ショパンについて、いま自分はまさに進化の最中だ、と思います。いったいなにが変わり、なにが変わっていないか、ということを、言葉で正確には言えないのですが。流れはとてもナチュラルなもので、この作曲家とつねに対話をしている感覚、と言えばいいでしょうか、彼がなにを感じているのか、なぜ心が揺れているのか、ということを、音を通して受け止めていくようなプロセスです。今回はみなさんにピアノ・ソナタ第2番をお聴かせいたします。2年ほど前から本格的にこの曲の準備を始めました。すでに2006年にはピアノ・ソナタ第3番のほうをお聴きいただき、これはコンクールでも弾きましたが、第2番はまったく異なる曲です。演奏や録音の現場に向かうまでに、できるかぎり曲に近づく勉強が必要です。すべての楽曲にはその道筋がありますが、どれだけその中に入ってゆくことができるのか。作曲家の感動や意図を理解でき、それを生き生きと再現できるか。そこに不自然さが生じないように、わたくし自身の直感、心、人格や経験、場合によっては冒険を、織り込んでゆく。そのような準備をするのです。この作業はなにもショパンに限ったことではありませんけれども。ステージでみなさんに聴いていただくすべての曲に、同じように対峙しているつもりです。

【ベートーヴェンに関して】
いまベートーヴェンの勉強にとても集中しています。私はベートーヴェンの音楽が好きで、また、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の録音を考えての、本格的な準備を始めたところでもあり、彼のピアノ曲のすべてが好きです。ピアノ・ソナタも同様、今回お聴きいただくピアノ・ソナタ第3番、作品2の3は、疑う余地なく素晴らしいソナタで、私はこの曲と、そして同じく彼のロンド・作品51の2とをリサイタルの前半で聴いていただくことで、古典派奏法のよさを余すところなくみなさんにお伝えできれば、と願っています。

みなさんがおそらく、ベートーヴェンのピアノ・ソナタに対するアプローチと、ショパンのピアノ・ソナタへのそれとの違いに興味を感じてくださるのではないかと期待しています。後半のショパンのソナタ第2番との間に、いろいろな違いがあることを発見してくださるでしょう。スタイルも、ハーモニーも・・・表現の細部も、メロディーや、構成上のバランスも、さまざまな角度から違いを意識して味わうことができます。みなさんのご理解を助けられるかどうか、が、私の課題です。

みなさんとの再会が待ち遠しいです。
よい演奏をいたします。それでは、皆さん、10月に!

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2017年06月28日

チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 途中休憩に関して

2017年10月1日(日)14:30開演 横浜みなとみらいホール
チェコ・フィルの「わが祖国」 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団


すでにお伝えしております通り、上記公演は当初発表から指揮者が変更になっております。
それに伴い、当初途中休憩なしと発表しておりましたが、途中休憩は入ることとなりました。
予めご了承くださいませ。
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2017年06月20日

チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 指揮者変更のお知らせ

2017年10月1日(日)14:30開演 横浜みなとみらいホール
チェコ・フィルの「わが祖国」 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団


以前の「芸協ニュース」でもお伝えしております通り、標題公演に出演を予定しておりました首席指揮者イルジー・ビエロフラーヴェクは5月31日に逝去いたしました。
改めて哀悼の意を表しますとともに、心よりご冥福をお祈りいたします。
これに伴い、チェコの最も優れた指揮者のひとり、ペトル・アルトリヒテルが日本公演の指揮を務めます。
アルトリヒテルはチェコ・フィルハーモニー管弦楽団でヴァーツラフ・ノイマンのアシスタントを務めた後、同オーケストラとは度々共演を重ね、今年5月に行われた「プラハの春音楽祭」ではビエロフラーヴェクの代役を務めました。

お客様におかれましては、何卒事情ご賢察のうえ、ご了承くださいますようお願い申し上げます。
尚、この変更に伴い、当初「途中休憩なし」と発表しておりましたが、変更の可能性がございます。
途中休憩の有無につきましては、恐れ入りますが決定後、弊社ホームページ等でご案内いたしますので、何卒ご了承くださいませ。

ペトル・アルトリヒテル(指揮)
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1976年ブザンソン指揮者コンクールにて第2位および特別賞を受賞。その後、国際的な経歴を積み始める。1978年にヤナーチェク音楽院を卒業し、25歳のときにチェコ・フィルハーモニー管弦楽団でヴァーツラフ・ノイマンのアシスタントを務めた。1987年よりプラハ交響楽団を指揮し、1990年に首席指揮者に就任。英国デビューとなった1990年のプラハ交響楽団とのエジンバラ音楽祭出演を皮切りに、1993年にはイギリス室内管弦楽団との共演でロンドン・デビューを果たし、さらに1994年にロイヤル・リバプール・フィルハーモニー管弦楽団を指揮して高い評価を受ける。その後、同団の首席指揮者に任命され1997年から2001年まで同職を務めた。英国ではほかにもBBC交響楽団、ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団とも共演している。1993年からは南西ドイツ・フィルハーモニー交響楽団の芸術監督も兼任。2002年よりブルノ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者、また2003年から2006年にはプラハ交響楽団の首席指揮者を務めた。
アルトリヒテルは、チェコの優れた指揮者のひとりとして、世界中でオーケストラを指揮し、主要な音楽祭に出演している。チェコ・フィルハーモニー管弦楽団とは度々共演を行い、2015年末から2016年にかけての中国ツアーで指揮、2017年5月に行われた「プラハの春音楽祭」では、ビエロフラーヴェクの代役を務めた。
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2017年06月02日

【訃報】イルジー・ビエロフラーヴェク

指揮者のイルジー・ビエロフラーヴェク氏が5月31日に亡くなりました。
ここに謹んで哀悼の意を表します。
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世界の主要なオーケストラを指揮したビエロフラーヴェク氏は、2013年に20年ぶりにチェコ・フィルの首席指揮者に復帰。2013年、2015年に行われた同楽団との日本ツアーでは、チェコ独特のサウンドで聴衆を魅了しました。

出演を予定しておりました10/1チェコ・フィルハーモニー管弦楽団公演に関しては協議の上、後日詳細をお知らせいたします。
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2017年05月31日

樫本大進と共演/アレッシオ・バックスに聞く!

2017年7月16日(日)14:00開演 横浜みなとみらいホール
樫本大進&アレッシオ・バックス 


7月に樫本大進とのデュオ・リサイタルで来日するアレッシオ・バックス。
故中村紘子さんが浜松で見出した逸材が、近年海外でも注目されるピアニストへと成長しています。
世界中をソリストとして、室内楽奏者として活躍する合間をぬって電話インタビューに応じてくれました。
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Q : 先月、シンシナティ交響楽団に代役出演、大成功だったそうですね。

アレッシオ・バックス(以下、AB) : ありがとうございます。エレーヌ・グリモーさんの代役でした。彼女の体調が優れなかったためです。パフォーマンスの数日まえに打診があり、現地のフェスティバルの最後の演目のためアーティストが変わっても演目変更ができない、ブラームスの2番を弾いてくれないだろうかと聞かれました。私は、土曜日にいただいたお話をすぐにお受けして週明けの火曜日にはシンシナティで演奏しました。実は指揮者のルイ・ラングレ氏もお父様のご逝去でフランスに急遽お戻りになり、指揮者&ソリストともに代役でのコンサートだったのです。

Q : たいへんな状況でしたね。

AB : はい。その日は、ブラームスの交響曲第3番とピアノ・コンチェルト第2番、という"オール・ブラームス・プログラム"。第2番コンチェルトは、以前弾いたことがあったことが、幸いしました。

Q : 聴衆の反応はいかがでしたか?

AB : とてもいい雰囲気でした。サー・アンドリュー・デイヴィスの指揮は素晴らしかったです。お目にかかったことはすでにありましたが、共演はこれが初めて。でもとても自然に演奏できました。相性がいい同士だと、お互いに感じることができたと思います。シンシナティ交響楽団は非常に豊富なレパートリーを持っていますし、パーヴォ・ヤルヴィ氏など、すぐれた指揮者との経験があります。質の良い演奏ができたと思っています。それから、運営もとても安定していて、よいアーティストを招ぶことに積極的なオーケストラなのです。飛び入り出演といえども安心して仕事ができる環境でした。幸運だったと思います。

Q : 日本に来ていただく直前にそのようなニュースがあり、お迎えする私たちにも弾みがつきます。

AB : 私も嬉しいです。

Q : 7月に日本で演奏していただく演目にもブラームスが入っています。第1番のヴァイオリン・ソナタですが。バックスさんにとって、ブラームスはもうよく馴染んだ作曲家でしょうか、また、このヴァイオリン・ソナタは?

AB : 最初から難しいことを聞くんですね(笑)。よくインタビューで「好きな作曲家ですか?」と聞かれますが、好きか嫌いか、は、答えが難しいのです。易しい・・・とか、とっつきやすい、といった観点のほうが、わかりやすいでしょうか・・・つまり、私たち演奏家はキャリアの中で多くの偉大な作曲家の作品に触れていきますが、若い時に「これはほんとうに好きだ。」と思っていても、なかなか繰り返して演奏することにはならなかったり、反対に、しばらくたってからその良さがしだいにわかってきて、繰り返し演奏し、なぜかいつも離れずにいる・・・という作曲家もあるのです。その意味では、ブラームスは・・・「いつも、かならず、居てくれる」作曲家ですね。難しい部分あり、しっくりくる部分あり。でも、つねに理解を呼び覚まし、興味を与えてくれます。

Q : 「好み」という言葉が軽すぎるのでしたら、そうですね、どのアーティストにも言葉では表せない「肌合い」のようなものがあるかと思うのですが。素人的な質問ですみませんが、バックスさんはイタリア人でいらして、たとえばイタリアにも膨大な音楽文化の歴史的蓄積があり、その文化を感じ取って成長されたと思います。その目線から、ドイツのロマン主義の代表的な作曲家であるブラームスをご覧になったときに、感じ取られるものはなんなのでしょうか?

AB : 個々の表現者のバックグラウンドは非常に多様なもので、国籍という一つの要素で語りきれるものではありません。演奏家の場合はどこでそのトレーニングを積むかにも多くを負うています、もちろん、生まれた国の要素はそれは、抜きがたいものではあるとしても、です。具体的な例を話しましょう。私は最近、マエストロ・テミルカーノフの指揮で、サンクトペテルグルグ・フィルハーモニー交響楽団とラフマニノフを弾いたのですが、最初の音を叩いた瞬間に「なにか」を感じました。非常に特別な・・・おそらく、ロシアの人たちにとってはとても馴染める、なんらかの要素だったと思いますが、私にもストレートに響くなにかでした。またアルゼンチンのテアトロ・コロンで演奏した機会には、私はまだかつて南米大陸の土を踏んだことはありませんでしたが、やはりなにか、 強く感覚に訴えかけるようなものを感じ取りました・・・。
イタリアはオペラなどを生み出した偉大な国ですけれども、ロマン主義のあの時代に、では、イタリア本国の作曲事情はどうだったかと振り返ると、ブラームスのような存在はないわけです。でも私たちにはそれより前にスカルラッティがいて、ヴィヴァルディがいて・・・という状況でした。
演奏者がなにかを感じて表現する・・・そのことは、狭い意味でのバックグラウンドには縛られません。かのアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリや、指揮者のアルトゥーロ・トスカニーニ、さらにはマウリツィオ・ポリーニ氏などをみれば、いわゆる「イタリア人」という枠を超えている人たちは、多くいるものだと思いますし、音楽に関して言えば、ある美しさや特徴に私たちが感応するきっかけというのは、具体的な国籍や経験を土台にしつつも、それが抽象化されたレベルで受け皿となっているものによると思います。

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Q : 南イタリアのプーリア地方、バーリ市のご出身ですね。ピアニストになるまでの経緯を少し、お話しいただけますか?

AB : はい。9歳で地元でピアノを始めまして、まずはバーリ音楽院に入ったのです。10年かかるコースを私はすこし速く5年で修了することができましたので、そのあとは、バーリよりすこし北の、シエナ音楽院に進みました。そこでスペイン人の先生のホアキン・アチュカロ先生と出会いました。2年後にアチュカロ先生がアメリカでも教鞭を取られることになりまして、先生について私もアメリカに渡ったのです。当時はヨーロッパの優れた教師は大勢イタリアで教えていらして、いい出会いがありました。とてもオープンな環境でしたね。また、バーリは南イタリアの中でもピアノ音楽の伝統が濃い地方なのです。

Q : そのようですね。また、音楽のみならず著名な舞台俳優などにも多く出身者がいますね。

AB : はい。文化的には充実していますし、申し上げてよいならば、若くて優秀な演奏家たちがつねに出ている地方でもあります。

Q : しかし、まだ高校生の息子を実家から離れた場所に送るのは、教育のためとはいえご家族にも大きなご決断だったのでは?

AB : そう思いますが、両親はとても理解があり、また、私がどこへ行ってもしっかりやるだろう、と信頼してくれていたと思います。その後はアメリカはもとより、日本の浜松でも、コンクールに出場して経験を積み、また出会いにも恵まれて、今につながっています。

Q : 日本に初めていらしたのはいつでしたか?

AB : 1994年のことになります。コンサートでの訪日でした。それ以後、行かなかった年はたしか、1995年か1996年の、1年だけだったと思います。以後、途切れることなく毎年1度は日本を訪れています。

Q : どのような印象をお持ちですか?

AB : その確かさのレベルが素晴らしいですね。仕事に関してはなにごとも正確にことがはこび、それが一箇所だけではなくてどの演奏会場でも同じです。私だけでなく、日本を訪れた演奏家はみな同じように感じているはずです。そして聴きにきてくださるみなさんが「なにかをしっかり感じて帰りたい。」という熱意をもってきてくださるというのが、日本の特徴だと思います。

Q : 確かに、私たちはおのずと「特別な体験」を期待する傾向があるとは思いますが、でもヨーロッパなどでは反対に、コンサート会場もとてもリラックスした空気ですね。

AB : よくも悪くも、ですね。それだけ生活が違うということでしょうね。

Q : 日本の聴衆の期待の強さが、プレッシャーになることはありませんか?

AB : そうですね。でもそれは「張り合い」ですから。逆にそれ以外の部分で、リハーサルやステージでの段取りがちゃんとできてなかったらどうしよう?なんていう心配は、日本では絶対、ありませんよ!(笑)。そのような心配が皆無ということは、言い換えれば、演奏に100パーセント集中できるということなのです、それが、タフな演目でプレッシャーを感じていても、集中できるのです。みなさんが、演奏される音楽の中に「なにか」を見つけようとして会場に来てくださること、それは、おっしゃらずともしっかりと空気で伝わります。音楽を「プライオリティの高いもの」としてご判断くださる姿勢を、とても嬉しく感じます。
それから、日本には長年の友人も多いので彼らに会って一緒に食事をしたりすることも楽しみなのです。私は美味しいものが好きで、食べること、そして料理が趣味なんですよ。

Q : そうそう、お料理をなさるそうですね、しかもかなり本格的に。存じておりますよ。

AB : あ、もうご存知だったんですね。そうなんです。なので、どんな食材や調理法があるか、日本ではいつも発見が楽しみです。またDaishin(今回共演するヴァイオリニストの樫本大進)もとてもよい友人なので、再会が楽しみです。

Q : お二人の出会いについて教えていただけますか?
AB : Daishinと初めて会ったのはキプロス共和国でのコンサート会場でした。

Q : キプロスですか?ということは、なにか、野外でのフェスティバルかなにかでしょうか?

AB : いいえ、場所はパフォスの遺跡の近くですが、室内のコンサートホールでした。2009年のことです。私は彼のコンチェルトの演奏を聴き、そのときはまだのちに一緒に演奏できるとは思っていませんでしたが、一緒に食事をした機会に、お互い年齢も近いことなどから意気投合し・・・

Q : 以後、8年間にわたり、友情が続いているのですね。

AB : はい、そうです。もう、長い友情ですね(笑)。

Q : 今回のプログラムですが。じつに、異なる4人の作曲家の曲目で構成されています。樫本大進さんと相談して決めたのですか?

AB : はい、二人で考えを出しあって、現在の私たちの心をしっかり込められるものを、と考え・・・そしてみなさんの耳が、すでに知っているものと、知らないものをミックスするのが面白いかと。まったく未知のものを提供してびっくりさせよう、ということではなくてね。むしろ、曲調から「あ、たぶん、あの作曲家じゃないかな?」と感じていただけるようなところを狙ってみたんですよ。

Q : シマノフスキの「神話」Op. 30、これは、他の3曲がヴァイオリン・ソナタであるのに対し、ヴァイオリンとピアノにまったく同等の役割が与えられているような曲ですね。ピアノのパートもなんとも表情豊かです。

AB : このシマノフスキの曲は、とても不思議なファンタジーの世界を表しています。彼の多くのファンタジックな作品の中でも、とりわけその特徴が強いものです。みなさんにも「自分はこの作曲家の偉大さや、持ち味を、今日まで十分わかっていなかったのではないだろうか?」と感じる経験をしていただきたくて、そしてそのうえで、私たちは自分たちも大好きな、「弾きたい!」と強く感じるものを選んだのですよ。
Daishinがつねに私に言うことなのですが、彼はたとえヴァオリン・ソナタでも、ピアノが顕(あらわ)さんとするものを打ち出してほしい、と言います。ただの伴奏で終わってほしくない、というのです。これをうけて私ものびのびと、どうすれば曲全体がさらにすばらしくなるかを追求して弾きます。彼との共演は、そのような、得難く、かつ楽しい体験です。彼にとっても私がそのような存在であればいいですが。
また、これは室内楽曲のコンサートだからこそ実現できる面白さですね。オーケストラとの共演ということになりますと、個々の楽器奏者の意思は指揮の導きに委ねられる部分がでてきますが、今回のような場なら、ピアノとヴァイオリンとの掛け合いを存分にエンジョイすることができます。

Q : 話がすこし逸れますが、ぜひ、さきほどのお料理の話を聞かせてください。いま、いちばんご自慢のレシピはなんですか?

AB : ニューヨーク・タイムズ 紙にも料理のコラムを頼まれて書きましたが(笑)、では、最近、とても美味しくできたものをお教えしますね、Uni(=雲丹)のスパゲッティです。南イタリアの海でもウニはたくさん取れますので、馴染みの食材なのですが、日本やアメリカでも美味しいものがありますね。ホッカイドウのウニ、最高ですね! ウニを使ってパスタのレシピに挑戦して成功しましたよ。白ではなく、軽めの赤ワインと合わせていただくと最高です、みなさんもぜひお作りになってみては。

Q : すてきなアイディアをありがとうございます。ぜひトライしてみましょう。最後に、7月の来日を楽しみにしている聴衆にメッセージをいただけますか?

AB : もちろんです、みなさん、再会できる日が待ち遠しいです。みなさんの「国民的ヒーロー」Daishinとの共演が楽しみです。プログラムは全体のバランスをよく考えて決めました。曲調や、作曲家のバックグラウンド・・・聴きながら、心がどこかに旅するような気分をきっと味わっていただけるでしょう。ぜひ、いらしてください。

Q : バックスさん、きょうは楽しいインタビュー、どうもありがとうございました。

AB : こちらこそ。では、7月に。 
                     
インタビュー:高橋美佐
posted by 神奈川芸術協会 at 11:52| 公演情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする